
11.電子分光結像法
電子が試料を通過する時、試料構成元素の原子核やそのまわりの電子からクーロン力を受け、また入射電子もこれらにクーロン力を及ぼす。この力により試料側の原子核と電子に新たな運動が励起されなければ、入射電子と試料の間にエネルギーの授受はない。このような散乱を弾性散乱といい結像の主要部分を占めている。弾性散乱は入射電子が外殻電子から少し離れた原子核の近くを通過するときに起こりやすい。この場合、入射電子は原子核の静電場から力を受けて大きな角度で屈折する。大きな核を持つ(原子番号が高い)原子ほど電子線を大きく屈曲させる。あまり強く屈折すると光路から外れ結像面に到達しない。したがって、まっすぐ通過してきた電子と弾性散乱電子の数(強度)に大きな差ができる。これが強度コントラストである。一方、入射電子が原子核より少し遠い外殻軌道上の電子あるいは励起電子塊(プラズモン)周辺を通過するときは、入射電子と軌道上の電子はともに同じ質量であるから、近傍を通過したときのクーロン力や衝突はこの電子に新たな運動を起こさせる(図1)。このとき必要とする余分なエネルギーは入射電子から供給される。このような散乱では、入射電子は一般に100
eV前後の小さなエネルギーを損失する。このようなエネルギーの変化をともなう散乱を非弾性散乱と呼ぶ。すなわち試料を透過した電子線は弾性散乱電子と非弾性散乱電子から構成されている。弾性散乱電子が像形成の主役であり、非弾性散乱電子は結像面が弾性散乱電子とは異なり、焦点の異なる像が重なるようなものであり、最終像を劣化させる。しかし、非弾性散乱電子は相互作用した元素固有のエネルギーを失うので、その元素の種類と位置に関する情報を含んでいる。このような電子のことを専門用語でコアロス電子と呼んでいる。ちなみに弾性散乱電子はエネルギーを失わないのでゼロロス電子と呼んでいる。
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図3 視細胞におけるカルシウム(Ca)とリン(P)の分布を示すエネルギーフィルター像(シグナルはそれぞれ緑色で透過像と重ねてある。)
Caは外節円板膜とミトコンドリア内膜に存在するが、Pはリン脂質を反映してか全ての膜系に存在する。
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図4 コアロス像から元素マッピングを求めるための演算手順を示す図
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電子分光結像法の手順
電子分光法による元素分析で最も良い試料処理法は凍結乾燥である。凍結乾燥では固定脱水過程おける物質の流失を最小限に食い止めることができる。
- 試料の急速凍結(第3章を参照)
- 凍結試料の凍結乾燥(分子蒸留乾燥:第9章参照)
- オスミウム蒸気により5分間固定する(免疫標識をする時はパラフォルム蒸気による固定:第9章参照)
- エポキシ系樹脂に包埋
- 超薄切片を作製
- エネルギーフィルター顕微鏡で観察。この観察時に多少のノウハウがある。コアロス近辺の像は暗いのが普通であり、十分な形態情報や元素の位置情報を得るためには十分な電子線を照射しなければならない。例えばCaのコアロス像を形成する電子数は照射電子の100分の1以下である。したがって、長時間露出するか、多量の電子を照射するかどちらかである。論理的にはどちらも同じに思えるが、私の経験では多量にあてシャッタースピードを短くした方が良い。
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