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8.単離した分子を見る

 電子顕微鏡というイメージからすると分子を見ることは何でもないように思えるが、実際は難しい。確かに分解能的には十分であるが、蛋白質をはじめ生体を形成する分子は全て軽元素から構成されており、電子線を十分散乱させることができない。電子顕微鏡のコントラストは主に電子線の散乱により形成されるので(amplitude contrast)、散乱が起こらないと像が観察されないことになる。また、蛋白質分子のように試料が小さいとピントをずらすことによる位相差像もぼけの中に埋没してしまい期待できない。合わせて、真空中で観察しなければならないことおよび電子線による照射ダメージを考えると精製蛋白質をそのままグリッドに載せ観察することは不可能に近い。したがって、簡単に見るためには染色剤で分子の周りを固めたり(ネガティブ染色)、白金蒸着したりして観察することになる(低角度回転蒸着法:low angle shadowing)。ここでは主にこれら二つの方法について紹介する。

(1)ネガティブ染色(negative staining,負染色)

 グリッドメッシュに精製蛋白を載せ、さらに染色剤である酢酸ウランを載せ余剰の染色剤を濾紙で吸い取り乾燥させる。すぐに観察でき分解能の高い像を得ることができるが、自然乾燥であること染色剤の被覆の相違により像が変化することなどを考慮し、像の解釈には十分注意したい。

ネガティブ染色の実際

準備するもの:
精製蛋白質などの試料、2% 酢酸ウラニウム水溶液、膜張グリッドメッシュ、扇型に切った濾紙

膜張グリッドメッシュの作製:
小さい分子のネガティブ染色には平らな支持膜を張ったメッシュが必要である。支持膜は通常カーボンで作られる。マイカを剥離し新鮮な面露出させ、その面にカーボンを厚め(20 nm)に蒸着する。水面上にカーボン膜を浮かせ、その上にメッシュを載せ切片用の支持膜と同様に紙を上から被せ回収する(下図1を参照)。一枚一枚メッシュでカーボン膜をすくって膜を張ってもよい。カーボン膜は疎水性が強いのでイオンスパッター装置にて親水化しておくとよい。

 
カーボン支持膜の作製図

図1 カーボン支持膜の作製図

 
  (注)
1. マイカ劈開面にカーボンを蒸着する。カーボン膜を水面上に遊離させる。
2. カーボン膜状にメッシュを並べる。
3. 紙でカーボン膜張メッシュを回収する。
4. 乾燥し、使用する。
 
     

手順:

  1. 試料溶液を膜張メッシュ上に載せ、濾紙で水分を吸収する。これにより試料分子が膜面に吸着する。
  2. 試料分子が乾燥しないように直ちに2%酢酸ウラニウム水溶液をたらし、再び濾紙で余剰の染色剤を吸収する。これらの操作は下図2を参照。自然乾燥させたあと電子顕微鏡で観察する。
余剰な試料や染色剤を吸収する方法を示している図  

図2 余剰な試料や染色剤を吸収する方法を示している図

(注) ピンセットの先に濾紙を触れさせ吸収する。

理想的なネガティブ染色では分子の輪郭を観察できるが、内部は見えない。
染色剤と試料との関係は様々でそれにより見え方も異なる。ウイルスのような粒子では下面のみ染色剤で覆われているほうが表面構造を鮮明に観察できる。
全体に染色剤で覆われると上面と下面の構造が重なり解析が難しくなるだけでなく、両面とも規則正しい構造が含まれているとモワレにより全く関係ない模様が現れることもある。また、部分的にポジティブ染色が加わることも考える必要がある。分解能が高いだけ構造解析には慎重に行うべきである。

ネガティブ染色における染色剤の載り方を示す模式図
 

図3 ネガティブ染色における染色剤の載り方を示す模式図

(注)
Aは試料が完全に染色剤で覆われた例で一見試料全体が観察されるように思われるが、透過像は全ての重ね合わせであるので解釈はむしろ難しい。
Bは試料の下半分のみが染色剤で覆われている例である。上半分はコントラストがないので像形成には寄与しない。試料の下面が鮮明に観察される。

 



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