学生時代から「人々の健康に寄与できる医用向装置の開発がしたい」という気持ちが強く、就職活動でも医用向装置メーカーを希望していた。当初は、医用向装置分野は欧米の方が進んでいるという思い込みから外資系を中心に訪問していたが、大学の教授からの助言もあり、国内で最も自社の技術開発を推進している日立ハイテク(当時の日立製作所)を選んだ。
そして現在、バイオテクノロジーや分析化学の分野で使用される装置の開発・設計を行っているバイオシステム設計部に所属し、遺伝子研究の中核を担うDNAシーケンサの開発に取り組んでいる。一言でDNAシーケンサと言っても、そこにはさまざまな機能が凝縮されており、実際の開発業務では機能ごとのユニットに分け、それぞれの開発を並行して行っている。そのなかで私はポンプユニット―――キャピラリと呼ばれる内径数10umの細いガラス管に高粘性ゲルを詰めるための装置を担当している。
市場が要求する「スルートップが高く、使いやすいDNAシーケンサ」を作り上げるためには、高粘性ゲルの詰め換えの自動化とその高速化が不可欠であり、その開発責任は非常に大きい。上司や仲間とも相談しながら、何度も軌道修正し、またDE(注1)を積極的に活用しながら、開発を進めている。このユニットの開発が終われば、それらを一つにまとめて装置に組み上げ、最終的な総合評価が行われる。その後、品質検査などの厳しい試験を合格したものだけが製品として市場に送り出されていく。その時に、エンジニアとして一つの仕事を成し遂げた大きな達成感を得ることができる。そして、私たち開発スタッフは、また次の新製品に向けて基礎検討を開始する…というのが一連の流れだ。
1995年、人間の全遺伝情報(ヒトゲノム)を解読するための国際ヒトゲノムプロジェクトがスタートした。当初、この計画が完了するために10年はかかると予想されていたが、最新式のDNAシーケンサの登場により、ついに2003年に6カ国による解読終了宣言が出された。その“最新式のDNAシーケンサ”には、日立製作所で発明された技術が採用されており、ヒトゲノムプロジェクト終了の驚異的な前倒しに大きく貢献したことをご存知だろうか。さらには2000年に日立ハイテク(当時は日立製作所)と米国アプライドバイオシステムズ社が共同で開発したDNAシーケンサ3100は、配列解析のみならず機能解析にも広く使用されており、2002年には3100の約一桁処理能力が向上された3730xもリリースされた。
新しい技術や装置を自分の手で創り出すことは、エンジニアだけが味わえる喜びであることは間違いない。しかし、本当の喜びとは自分達が作った装置が、遺伝子研究や医療の発展など、社会や人々の役に立っていることを実感できることにあるのだと、最近つくづく感じている。現在、世界中で、人々が病気から開放され、健康になるための研究が行われている。その研究スピードを革新的に加速させるような装置を開発すること――――― それが今の私の大きな目標である。そのために何が必要かを考え、その技術を生み出すことに全力を尽くしていきたいと考えている。
(注1) DE = Digital Engineering
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